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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)10192号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、(事故の発生)

昭和四一年七月二九日午後六時頃、東京都江戸川区小島町二丁目二四八三番地先本件道路上において、甲車を運転進行中の秋久が道路上に甲車もろとも転倒し、前額後頭部右側挫傷および挫創脳出血の傷害を受け、同月三一日午後零時八分死亡したことおよび本件道路の北東部分は舗装され、南西側は未舗装であることは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、次の事実が認めらる。

(一) 事故現場の状況

本件道路は幅員15.45米で簡易舗装部分は九米、未舗装部分は6.45米である。舗装部分は、道路端部分に水が溜り、実際に車両が通行していたのは道路中央寄りの約六米位であつた。未舗装部分は約一〇年前河川敷を埋めて作られたもので、昭和三九年に一般の通行に開放されたが、車が通行することは皆無で、専ら歩行者が使用していた。新葛西橋が完成し、旧葛西橋がなくなつてからは本件道路の車両通行量は激減したが、当時舗装部分も含めて路面一帯に凹凸ある箇所があり、又、未舗装部分の方が舗装部分より約一〇糎高くなつていた。未舗装部分に面して「天幸」というてんぷら屋があり、その前あたりの舗装部分上、未舗装部分との境目に接して、直径1米と1.2米の楕円形で深さ一五糎の窪み(以下本件窪みという。)があり、当時その窪みから砂利がはみ出てうず高くなつていた。

(二) 事故発生の状況

当時秋久は乾物屋に夕食のおかずを買いに行くため甲車に乗り、「天幸」から約一〇〇米離れた地点で未舗装部分に面している自宅(中華そば屋)を出て行船公園方面から旧葛西橋方面に向け発進し、未舗装部分を横切つて舗装部分を直進し始めた頃、八百屋(秋久方の並びで旧葛西橋寄りにある。)の前にいた訴外行木悦子と挨拶を交わした。そのまま進行して数秒後舗装部分中央寄りを対向進来したダンプカーとすれ違つた際、前方注視を怠つていたためか、急にハンドルを左に切つたためか、甲車を本件窪みに落輪させた。たまたま本件窪みのまわりに砂利がうず高くなつていたため甲車のタイヤが落輪のショックでスリップし、不安定な姿勢のまま舗装部分を約一三米走行した後、未舗装部分との境の段差ある箇所で一回転しつつ甲車は転倒し、秋久は更に約六米ばかり前方の地点に落下転倒し負傷した。甲車の左側ステップ、ハンドル等左側面が路面との摩擦による痕跡をとどめていた。

前示のように、未舗装部分は舗装部分より約一〇糎高かつたのであるが、両者の境が切り立つた断面を連続してなしていたと認むべき証拠はない。しかし、右の甲車転倒地点では、甲車が一回転しつつ未舗装部分に入つて転倒しているのであるからたまたまこの地点では車輪の回転に抵抗するだけの段差が存し既に平衡を失つていた甲車に、一回転して転倒するような衝撃を与えたものと推認するほかない。これは甲車の速度にも関係することであるが、訴外行木が甲車を見送つた地点から本件窪みまでは三〇米以上あり、甲車を時速四〇粁に加速するには十分であつたと考えられるが、この速度であれば、右認定に牴触するところはない。

二、(被告の責任)

本件道路の管理者が被告であることは当事者間に争いがない。

前認定のように、当時本件道路上には、凹凸ある箇所が多かつたのであつて、その一つである本件窪みが、たまたま被害者秋久の不注意および舗装部分と未舗装部分との段差の存在という事情と相まつて本件事故を惹き起したのである。四輪・三輪の自動車にも、また低速の自転車にもほとんど危険を及ぼすおそれはない窪みであるが、法令上時速四〇粁で都内を走行することを許されている二輪車の走行も当然予想しなければならぬ筈であり、殊に、有効幅員は実際上舗装部分の中央線寄り六米幅位に過ぎなかつたこと前示のとおりであるから、この部分、特に未舗装部分との境界線付近に、前認定のような大いさと深さのある窪みが存することは二輪車の走行上危険であることを道路管理者として気付いていなければならぬところである。路面は本来平坦なるべきものであるから、このような交通上危険な窪みが存することは、道路に破損を生じたことにほかならない。本件道路が簡易舗装であるため、このような破損箇所を生じ易いことは被告主張のとおりであろうが、だからといつて交通関係者が安心して通行しえないような欠陥が放置されていてよいというわけのものではない。被告としては速やかに破損箇所を修繕するか――現に事故後間もなく本件窪みは埋められているのである(証拠略)。――或いは破損箇所の付近等に標識を掲げて通行車両の徐行を促す等して前記危険の発生を未然に防止するための措置を講ずるべきであつたというべく、右義務は車両の通行量の多少によつて何ら左右されるものではない。所轄内の道路を常時良好な状態に維持修繕し、もつて交通の安全性を確保することは管理行為の内容に含まれるものであり、被告がこれを怠り、本件窪みという破損箇所を放置したため秋久が転倒死亡するに至つたというほかない。そうすると、後記のような秋久の過失を考慮しても、なお、被告の本件道路の管理には瑕疵があつたと認められる。よつて、被告は国家賠償法二条一項により原告らの蒙つた後記損害を賠償する責任がある。

三、(過失相殺)

秋久は前認定のように、本件事故現場のすぐ近くに住んでいたのであり、本件窪みの存在その他本件道路の状況について十分な知識を有していたものと考えられる。それにもかかわらず第一項で認定したような態様の下に本件窪みに甲車車輪を落ち込ませてしまつたのであつて、甲車の速度、対向車の存在その他諸般の事情を考慮すると秋久の過失は七割程度と見るのが相当である。(倉田卓次 荒井真治 原田和徳)

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